2015年3月6日金曜日

視覚障害者と絵画:色彩の知覚とイメージ


みんぱくの共同研究「触文化に関する人類学的研究」(代表者広瀬浩二郎)の最終研究会が国際基督教大学博物館湯浅八郎記念館でひらかれた。期間は2月28日・3月1日の2日間。

この研究会は私が吹田市立博物館の館長だった2006年に「さわる―五感の挑戦」を開催したとき広瀬さんにアドバイザーをお願いしたことがきっかけとな り、その後、文科省科学研究費補助金やみんぱくの公開シンポジウムや共同研究を継続的におこなってきたので、成果の数も多い(広瀬 編著『さわって楽しむ博物館』2012など)。ふつう、博物館では展示品に「さわる」ことはタブーにちかいが、この常識に反してあえて「さわる」を押し出した展示を具体的につ くることが目的の一つだった。

さわる展示物に適したものはなにか。はじめにとりあげたのは陶芸だった。視覚障害者に取り付きやすく、費用や時間の面でも製作が簡単で、それをイベント化 して、展示を構成するという形が考えられるからである。とくに滋賀県立陶芸の森において宮本ルリ子・三浦弘子さんの企画によるメンバーの作品を構成したイ ンスタレーション的展示にはあたらしい可能性を感じた。ほかに、林の中で動・植物にさわる(美濃加茂市民ミュージアム)、考古学の遺跡にでかける(陸平貝 塚体験ツアー)、観光町歩き(宇治市)などのたくさんの企画があがり実行された。

「さわる」を押し出すと普通は視覚障害者が対象になるのだが、一般論では「オキノドクニ」、障害者側は「コンナコトデイイノカ」というクレイマー的論が主 体となりがちである。しかし、この研究会の討議の中から生まれたのは全体の体感こそ重要であり、そこには障害者・非障害者の区別はないのである。すると、 博物館の役割は良きオリエンテーションの場として考えるといいのかもしれない。広瀬さんの主張する「さわる」という(非障害者がないがしろにしてきた)未 開拓の世界が今、開かれつつあることを実感じた。

こうした一連の動きの中で、これから取り組んでいかなければならないのは「絵画」ではないかと思い始めた。視覚障害の絵画に対する興味は意外と強い。モナ リザや浮世絵を凸インキやレリーフであらわす手法の開拓はずいぶん進んでいるが、欠落しているのは色彩である。彼らの中でも生まれつきの全盲、いつ失明し たか、弱視、色覚異常などの差があるが、(たとえ言葉だけにしても)色をどう知覚しイメージしているかが私にはまったくわからない(あるいは極めて個人的 なものかもしれない)。しかしこの研究会での対話を通じてその道を開いていくことは不可能ではないと思う。個人的にはフォルムを単純化し、色彩を限定した モンドリアンの絵を考えるのがいいのではないかと思っている。

(小山修三)

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