2016年9月3日土曜日

【こんな本を読みました

広瀬浩二郎編著 2016 

『ひとが優しい博物館―ユニバーサル・ミュージアムの新展開』

青弓社 ¥2000円+税】



本書は昨年(2015)11月に民博で行われた公開シンポジウムをまとめたものである。ユニバーサル・ミュージアム研究会 の報告書としては『さわって楽しむ博物館』2012につぎ第二冊目となる。本書の終章でこの研究会のあゆみを紹介しているが、私が吹田市の博物館にいたこ ろ、硬直化している日本の博物館のあり方を正さなければ「博物館は滅ぶ」と考え広瀬さんに相談を持ちかけたことから始まった。今でも、博物館や美術館に とって「さわる」ことはタブーに近いのだが、関心を持つ若手研究者が意外に多く、マスコミをはじめ一般の関心も高いので回を重ねるごとに参加者が増えて いったのである。次にシンポジウムをやるときは民博の演習室では間に合わないので、講堂でやらねばと話し合っているほどだ。

本書の内容 は、美術館の多様なプログラムの現在、大学での実習や実践のありかた、各地の博物館や考古学遺跡で盛んになっているワークショップを中心とした実例、それ に街歩きや観光地におけるユニバーサル・ミュージアム的な試みが詳しく報告されている。たくさんの人を集め楽しませるかが、やはり最優先されることがわか る。広瀬さんのすごいところは、さわることは人間にとって欠かせないという強い信念を持っていることだ。今回は聴覚障碍者である相良啓子(民博特任助教) との対話から始まったので驚いたのだが、障害とは社会的マジョリティがマイノリティに押し付けた「虚構の論理」にすぎないと喝破し、単なる同情などではな く根本にかかわる問題であることを考えさせられた。

ここで一つ注文を出しておきたい。広瀬さんの学問的興味と熱意はこれからも展開してい くだろう。しかし、いまのところ、私は博物館にこだわりたいのである。この研究会を始めたきっかけの1つは国際シンポジウムだった。そのときは外国とくら べて日本はずいぶん遅れているという気がした。しかし、日本においてもさまざまな萌芽を十分に発見できたし、特にこの10年近い我々の研究は十分成果を上 げて準備は整ったはずだ。そのためにはこの問題が諸外国ではどう進展しているのかを知るとともに、日本の博物館研究がそのなかでどんな位置にあるのかを確 かめる国際シンポジウムをぜひやってもらいたいと願うのである。

(小山 修三)

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