前世紀末、ドイツの書店でポケモンやドラゴンボールの本やフィギュアまでがずらりと並んでいるので驚いた。日本のアニメやコミックが外国へとは知っていたが内心では「しょせん子供用」と思っていた。しかしそのサブカルチャ―が、その後も世界へと販路を広げていることは周知の事実である。
この本はサブカルの巨人の一人、安彦さんと青森のメジャー紙『東奥日報』の記者、斉藤光政さんのコラボによるものだ。
安彦さんは遠軽町(というので津軽の奥にある村かと思っていたらなんと北海道だった)出身。東京の大学にあこがれたがいろいろあって青森の弘前大学で止まってしまった。70年代の全共闘に深入りして除籍される。絵の才能をつかって地元の印刷所などで働いていたが、そのうち当然のように東京へむかう。虫プロではたらきアニメ界に巻き込まれて、一連の「機動戦士ガンダム」をつくる。ほかに、少数民族の過酷な運命を描いた『クルドの星』や『ナムジ 大国主』など日本古代史を扱ったマンガ作品もある。全共闘の学生は概してオタク、キマジメ、クライ。安彦さんもそんな反社会的志向がつよく、とくにマンガは、講談社などのメジャー系のものがほとんどなかった。
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千里中央のガンダムのプラモデル売り場 |
一方、斉藤さんは米軍基地を中心にしたルポや評論を出して注目されているが、ほかに三内丸山遺跡のレポートなど郷土史にも興味があり、『偽書―東日流外三郡誌』という怪?著(安彦さん曰く)があるように現役記者として視野が広い。
本書のもとなったのは、安彦さんのぼんやりとした企画案に斉藤さんが飛びつき、その馬力で東奥日報に一年間にわたる連載したものに、安彦さんのエッセイなどを加えて再構成したものである。オタク性と戦争に対する哲学(正義感)が中心となっているが、基底には同志愛というか、郷土愛の強さが濃厚にある。青森人には太宰治や寺山修司に代表されるように、強烈な郷土へのおもいと都会への反発がある。郷土愛とはサブカルそのものなのだが、ときに逆転してメジャーに変わるという現象をおこす。いま日本は人口減少の時代に入り、衰退を防ぐために地方創生の動きが活発になっている。その原動力は郷土愛からでることは明らかで、本書はその具体的なモデルの1つになるのではないだろうか。
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山口昌男さんは文化人類学界のリーダーの1人でメジャーそのものだった。そのあたりのズレがおもしろい。 |
(小山 修三)