2014年1月10日金曜日

国境: ベトナム旅行記(その4)

ベトナム北部は中国と国境を接している。ライチャウの町には川を挟んで大きな橋がかかっていて、対岸は中国・河口市である。検問所の付近に銃を肩にした兵士が立っているのがみえる。国境とは自然とは別の人工的な行政区分だがそのために雰囲気ががらりと変わる。

かつてのベルリンの壁のように一発触発のホットなもの、オランダのように「酔っ払ってそっちに倒れるとベルギーに行っちゃうよ」と言うほどに緊張感のないもの。南米からアメリカに飛んだ時は、メキシコまでは道路や家が自然の地形に沿って作られていたが、鉄網の北のアメリカに入ると道路や町の区画などすべてが直線的になるのに驚いたものだ。一般生活者にとっては国境とはじゃまっけなモノで、遠く海に隔てられているので関係ないと思っていた尖閣諸島や竹島が政治家の手にかかると大問題となるのである。

ベトナムと中国の国境は自然条件としてはほとんど差はないけれど、やはり現在の経済力の差が歴然とあらわれていて、中国側の建物は大きく、高く圧倒的である。

観光がこれからの主産業になるのは世界の常識である。だからベトナムとしては、中国の経済力をうまく利用すれば利があるはずだ。ところが、町の様子は意外と消極的で広告その他に漢字がほとんどなく、ローマ字のベトナム語に固執しているのが明らかだ。そういえば、南のホーチミン市でも英語の看板が意外と少なかった。

それには歴史に深くかかわっていると思う。ベトナムは過去には征服や戦争によってくりかえし甚大な被害をこうむった。今でも漫然と対応していれば、グローバル化の波に流されて中国化やアメリカ化は避けられないだろう。政府は国民のアイデンティティを明確にし、それに誇りをもたせることが必要だと考えているようだ。苦難に耐え、しぶとく生き残ってきたベトナム人のパワーには感動を覚えるほどである。彼らは決して滅びない。これがこの短い旅の間にベトナム贔屓になってしまった私の感想である。 

(小山修三)

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