この本には広瀬さんと私の対談が載っているので書評というわけにはいかないのだが、まあ、楽屋裏というか、きらくなおしゃべりのつもりで読んでください。
もう10年以上も前、年の暮れのみんぱくでのこと。突然、停電になり、足元がおぼつかなくなった4,5人が受付前の入り口でおろおろ騒いでいた。すると横をスッと風のように通り抜けて出て行った人があった。「誰?あれ」、「広瀬先生」。タガソレの薄暗がりを恐れない人がいるんだ、と大げさに言えば宇宙人にあったというか、次元のちがう世界に紛れこんだような気がした。
その後、広瀬さんとはわたしが館長をやってた吹田の博物館で、因習に固まった日本の伝統的な展示をかえようと「さわる展示」を計画した時、アドバイザーとして協力をお願いした、なにしろこれも異次元の世界だったから。
「無給なんですか」、「うちの博物館ではえらい人は皆ただ、ウメサオさんとかコマツさんとか」などと軽口をたたかれながらやっていた。その企画は今も続いているし、別にみんぱくでは、いわゆるユニバーサル・ミュージアム共同研究会を立ち上げ、青森、東京、信楽、倉敷などへ実地踏査するのを主旨とした活発な活動をくりひろげている。
広瀬さんと付き合っていて、さわやかなのは、彼が「見えない」障害をまったく苦にしていないことだ。むしろ、晴眼者は「さわる」世界の深遠さを知らない、と啓蒙につとめていることはよく知られている通りである。
本書は『季刊民族学』2012~2014にだされた6回分の連載を中心にまとめたもので、宇宙、育児、武術、観光、など思いもかけなかった分野に突入していった活動報告書とも言える。これからも、この調子でどんどんやってもらいたいと思う。それができれば....
わたしには夢の企画がある。ミンパクの講堂で2人の天才、広瀬さん(もちゃげすぎかなー)とピアニストの辻井伸行さんをならんで舞台に立たせたること。そうすれば、広瀬さんの日ごろの主張と活動の意味が分かるだろうし、「見えないのはお気の毒」というわたしたち健常者の思いは誤解にすぎないことが明らかになるだろう。それよりなにより、会場が満杯になって、常に入館者数の勘定に苦しんでいる博物館の苦労は吹っ飛んでしまうはずだ。
(小山修三)
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