2016年2月13日土曜日

市民たちの博物館 都市のなかの生き物


吹田市立博物館の館長だったとき、それこそ清水の舞台から飛び降りるような気持ちで、思い切った手を打った。博物館の企画がマンネリ化して入場者数の減少 が続く状態を打開するために、市民に企画・運営をゆだねる「千里ニュータウン展」をやることにしたのである。千里ニュータウンは1960年代から始まった 日本最初の大型ニュータウンであり、それが70年万博につながったこともあって吹田市民の誇りになっている。そのためか、この特別展は2ヶ月足らずの開催 期間で、例年の3倍の観客を動員するという成果を挙げた。市民がやった展示はなんとも規格はずれのものとなった。普通なら当時の電化製品やおもちゃ、そし て写真、パンフレットくらいで終わるものが、居間や勉強部屋、(ホクサンバスオールとよばれる携帯式に近い)風呂場を再現したり、超小型自動車ミゼットま で担ぎ込む事態に至ったからである。

目を見張ったのは自然に興味をもつ市民委員たちの活躍だった。近代的なニュータウンの建設とは大規模な自然破壊であった。私には彼らが馴染み深い里山の消失を悲しみなんとかそ れを取り返そうとしているように見えた。彼らはそれまで雑木林や田圃、公園、空き地、ため池、河川敷を丹念に歩き動・植物のあり方を継続的にしらべており その変化の記録を図や表にして展示したのである。そこに示されたのは生態系のバランスの崩れである。とくに外来種が固有種を駆逐しそうになっていること は、河川やため池のブラックバスやブルーギル、農地でのアライグマやヌートリア、荒地のセイタカアワダチソウやナルトサワギクの繁茂などから明らかであ る。もっとも外来種でなくとも町にあふれるカラスや農地のシカ、イノシシ、サル、クマの増えすぎもある。

その責任は人間の行為にあることがおおい。生活の快適さだけを追求することを止められないとしたら、絶滅する種が出ることも覚悟しなければならないだろ う。しかし、よく調べると絶滅危惧種とされる動植物が身を潜めるように生き残っているという発見には励まされる思いがした。町に君臨しているカラス、高層 ビル街にすむハヤブサ、アフリカでは黒ヒョウが町でゴミあさりをしているという話を聞いたときはのけぞってしまった。生物は環境に適応してそう簡単には滅 びないのかもしれない。環境さえ変われば新しい復活と均衡が生まれてくるのである。

自然派委員の活動は継続的で、のちに「吹田の自然」を扱う夏季展覧会として定着した。展示と連動してセミの抜け殻やタンポポの調査などの自然に親しむイベ ントが子供たちに喜ばれたからである。地方の博物館や博物館相当施設はほとんどが文科系であり科学系の自然史を扱うことは難しいといわれる。しかし、市民 の多様な視点と協力がそれを変えてゆく力となり、これからの博物館や博物館相当施設のあり方を示していると思う。

(参考文献)高畠耕一郎 2015『街なかの自然-大阪吹田の生き物たち』アットワークス

(小山 修三)
せみのヌケガラ調査を(子供と壁に向かって)記録している高畠さん

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